



























設計者の自邸。かつて水運拠点として栄え、倉庫の利活用により歴史と新しい文化が併存する街の築40年の大規模マンションの一室、家族用住居への改修。南北に長い躯体に、中心から少しずらして一つのボリュームを置いた、一見単純な平面構成を基本としている。
この土地には8年ほど住んだ。毎週末、近隣を散歩しながら街で起こる出来事や現象を観察し、写真に収め続けた。膨大な量の写真、この地で過ごす時間が蓄積されるにつれて、いつしか街に愛着を抱いていき、ここに家族として碇を下ろすことを決めた。
場所ごとの空気量、ピントの合う距離、光の切り取られ方、このまちで感じるものは均質ではない。東西に一直線に抜ける清洲橋通りに出ると、建物群の隙間に大きな空が見える。一本裏手の道に入ると、路上には園芸や自転車が置かれ、歩く足元は誰かの生活域だ。少し歩けば必ず橋に辿り着き、強い風が吹く方向を見ると、きらきらと光を受ける川が広がっている。一方で、地図を見ると大きく東西・南北で区切られた淡白な構成だ。開削された小名木川は隅田川との対比で直線的な形状が際立ち、街区はこれを起点に矩形に分割されている。この淡白な構成の中に、不均質な景観が重なり合う様子が清澄白河の一つの側面を形作っている。
北・南・東に面する全ての窓からは清澄白河の街を臨むことができる。南北に長い住戸に中心から少しずらして一つのボリュームを置き、長軸に沿って150×75の溝型鋼を流す。ボリュームを2箇所切り離し、一つは人の通る廊下、もう一つは設備の通るPSとした。通した廊下は溝型鋼にぶら下がる扉を引くと、脱衣所に転換する。置かれたボリュームの裏側は、東面と同じように南北に貫通する通路であり、各部屋に面する収納としての機能を付随させ、プライベートな生活域とした。ボリュームと線の単純な操作で生まれた大小の気積と光の受け方が、清澄白河で感じる「淡白な不均質」と連続する。窓から少し離れると、清澄白河の街の立面が窓いっぱいに広がって見える。南北の窓から街が貫通しているが、地続きではなく浮遊している。この感覚が、準工業地帯の空気感を定着させながらも、住宅建築での振る舞いを崩さない、目指した空間の立ち位置かもしれない。
種別 リノベーション
設計 齋藤弦/Strings Architecture + 小黒由実/YOGU
ファブリック 山本紀代彦/fabricscape
施工 株式会社ビスムカンパニー
床面積 84.53㎡
写真 西川公朗写真事務所(図面以降:齋藤弦)
所在地 東京都江東区